【短編】ダメ男依存症候群
誰……?
旬と同い年ぐらいで、背も小さくて、明るめの茶色にパーマをかけた髪型がよく似合っている。そして何より、小さな体と対照的に胸が大きい。
多分、同じバイトの娘だろう。
それは何となく感じとれたのだが、奈津美には、彼女と話す旬は、とても楽しそうに見えた。旬は人見知りをしないし、誰とでも基本的にはあんな風であるのに、奈津美にはそれが変に不愉快に感じた。
なのに声も掛けられず、奈津美はただ二人を見ていた。
女の子の方が鞄から、ラッピングされた小さい袋を取り出し、旬に差し出した。明らかに、バレンタインのチョコレートか何かだ。
旬はそれを笑顔で受け取った。
貰うんだ…
奈津美は目の前の光景をただ呆然と見つめていた。
最後に、二人は一言二言交わし、手を振って別れた。女の子の方は、奈津美がいる方の反対側へと消えていく。
そしてすぐに、旬の視線が奈津美の方へと向き、目が合う。
「あ! ナツ!」
旬は、ぱあっと表情を明るくして奈津美のもとへ走ってきた。
「ナツ! 何でここにいんの?もしかして迎えに来てくれた?」
「…うん」
奈津美は無表情で頷いた。
『何でここにいんの?』
メールを送ったはずなのに、そう聞かれてしまった。
「あ、ごめんな? 今日、夜からの奴がインフルエンザで急に来れなくなったらしくてさ、バイトの時間延びたんだ」
旬が申し訳なさそうに言う。だから奈津美も、
「そうなんだ」
としか言えなかった。
「でも嬉しー。ナツがわざわざ迎えに来てくれるなんてさ」
緩みっぱなしの表情で、旬が言った。それにつられて奈津美の表情も緩むが、それでも心の中の変に残ったもやもや感はなくなっていない。
「んじゃ帰ろ♪」
旬が奈津美に手を伸ばした。
ほんの一瞬躊躇ってしまったが、気付かれないように奈津美は旬の手を取った。