【短編】ダメ男依存症候群
「今日バレンタイン割引ってやっててさぁ」
歩きながら、旬はいつものように話し始める。
「うん。書いてあったね。200円引きだっけ」
奈津美はできるだけ普通を装って相槌を打った。
「そう。だからいつも以上に人居てすっげー忙しかったんだ。しかも皆カップルだし。…あーぁ。せっかくのバレンタインなのにとんだ災難だよ」
「…しょうがないでしょ。そういう仕事なんだから」
奈津美はそれもいつも通りに言ったつもりだった。
「…ナツ、何かあった?」
旬が奈津美の方を見て、いきなり言った。
「え……」
「この間電話した時も思ったけど…やっぱり元気ないっぽいし」
旬はやっぱり鋭い。
でも、こんな奈津美自身いまいちよく分からない変な気持ちを、旬には言えなかった。
「そんなことないわよ。確かにちょっと仕事の疲れが溜ってるかもしれないけど、別に大したことないから」
無理矢理言い訳を作って、奈津美はわざと明るい声を出して言った。
でも、旬の目を見ることはできなかった。
「仕事きついの?」
旬は労るような、心配するような口調で尋ねる。
その言葉に、奈津美の心が染みた。
「大丈夫。やらないといけないこともちゃんと片付いたし、あとはいつも通りだから」
旬に心配をかける嘘にそれを解消するための嘘を重ねた。なんて最低なことをしてるのかと、自分で自分が嫌になった。
思っていることを、気になっていることを、それとなくでも言えれば楽になるだろうか……
「そういえば…旬。携帯、電源切ってたの?」
連絡が取れなかったことを聞こうと思って、奈津美はそのことに話題を変えた。
「あっうん。そうだ、俺充電切れかけだったから切ってたんだ。あ、もしかしてナツ、電話くれてた?」
「……うん。メールもしたんだけど」
「マジで!? ごめん、まだ見てなかった」
旬はそう言ってダウンジャケットのポケットから携帯を取り出す。
奈津美は、段々とイライラしてきた。