【短編】ダメ男依存症候群
「…普通、それが先じゃない?」
必死に感情は抑えて、奈津美は旬に言った。
「え……?」
旬はきょとんとして奈津美を見る。
「女の子と話す暇はあっても、あたしに連絡しようとは思わなかったの?」
言うまいと心がけた一番言いたくなかったことが口から出てしまった。
「女の子…? あ、見てた?あれ、同じバイトの子だよ。一緒にとばっちり受けたんだ」
旬は事も無げにそう言った。
そんなこと、大体分かってる。でも、旬の口からあっさりと、奈津美以外の女と『一緒』という言葉が出てきたことが、ショックだった。こんなちゃちなことにまで反応してしまう。
「ああいう子、旬の好きそうなタイプよね」
胸のあたりなんか特に、と心の中で付け加えて奈津美は皮肉のつもりで言った。
「えー? まぁ、顔は可愛いとは思うけど、別にタイプではないって」
旬はそれに気付かず、いつものように返してくる。
「でも、バレンタインの…チョコか何か貰ってたじゃない?」
「貰ったけど…でもあれは義理だから貰っただけだよ。彼氏に作ったクッキーが余ったからって。皆にも配ってるし、あんまり形もよくないやつだけどって言ってたから貰ったんだ」
少しも悪いとも思っていないような口調だった。
実際、嘘をついているわけでもないのだし、旬に悪いところなんてない。
なのに、奈津美のイライラした気持ちは、どんどんひどくなっていく。
「あ、もしかしてナツ、ヤキモチ?」
奈津美の心境に気付くわけもなく、旬はニッと笑って言った。
「…別にそんなんじゃないから」
いつもより、声が低く重くなる。これだともともとない可愛げが、本当になくなっている。
「ナツ、心配しなくても俺にはナツだけだって。ナツが居れば、俺は生きていけるから」
旬はいつものように笑ってそう言った。
いつもなら、それで奈津美も赤くなりながら『何言ってんの』と言えるはずだった。なのに、今は、そんな風にできなかった。
苛立ちだけが、募っていく。
奈津美は、黙って立ち止まった。