【短編】ダメ男依存症候群
「……しゅ」
奈津美が旬を呼ぼうとしたらタイミングが悪く、ケトルがピーッと高い音をたてた。
奈津美は慌ててコンロの方に向き直り、火を止めた。
本当にタイミングが悪い……
おかげで肝心なことが言えなかった。
旬に『ごめんなさい』の一言を……
自分の性格がどれだけ意固地なのか、嫌というぐらい思い知らされる。
たった一言なのに、何で言えないのだろう…
旬の方が分かっている。こういう時はどうしないといけないのか……
結局は、旬まかせだ。さっきのだって、旬が先に口を開いてくれなかったら、何も言えてなかった。言えたところで、謝罪というよりは言い訳で、本当に言わないといけないことは言えてない。
奈津美は小さくため息をついた。
ココアを入れて、奈津美は旬のところへ持って行く。
「あ、ありがと、ナツ」
旬の前にカップを置くと、旬はいつものようにニコッと笑顔を奈津美に向ける。奈津美もつられるように、顔を緩めて、旬のそばに座る。
「ナツ。これ……」
旬は、ココアを一口飲んで一息つくと、着たままだったダウンジャケットのポケットから、何かを取り出してこたつの上に置いた。
それは、手のひらと同じぐらいの大きさの黒色で光沢のある紙袋だった。ピンクのリボンで飾られて、プレゼント用のラッピングをされているものだと分かる。
「何? これ……」
奈津美は、それを見て、首を傾げた。
「開けてみて」
旬は何だか照れくさそうに笑いながらそう言った。
意味の分からないまま奈津美は言われた通り、その袋を手にとって裏返し、口をとめてある金色のシールを丁寧にはがして開けた。
逆さまにして手の上に出てきたのは、小さくて細長い直方体の箱だった。それは、新品の口紅だった。