【短編】ダメ男依存症候群
「旬…これって……」
奈津美が驚いて旬の顔を見た。
「うん。この前、俺のせいで折っちゃったから……本当は来月に渡そうと思ってたんだけど、その……色々、ナツに嫌な思いもさせてるから、そのお詫びっていうか、さ。あっ、でも別にこれでチャラにして貰おうとか、そういうことじゃないから! …何ての? 俺なりの誠意っていうか……」
旬もいっぱいいっぱいらしく、段々しどろもどろになっている。
それだけで、旬の気持ちが伝わってきた。
「同じバイトの人に聞いたり、雑誌借りたりしてさ、人気あるらしいのにしたんだ。色とか、ナツに合いそうなの選んだんだけど……」
照れ隠しなのか、下を向いて頭を掻きながら旬は言葉を続けた。
「でも、口紅って高いんだなー。俺、びっくりしたよ。女の人って大変なんだなって改めて思った」
普通、マナーとして自分があげたプレゼントの値段のことなんて、言ったりしない。でも、旬だから許せる。
実際、旬がくれたのは、人気ブランドのもので、旬にとっては、大きな買い物だったに違いない。それは、奈津美のためにしてくれたことだ。
「…ありがとう」
大事に、包み込むようにして、奈津美は口紅を握った。
「へへっ。どういたしまして」
旬は嬉しそうに、笑った。いつも通りのしまりのないその表情が、奈津美の心をくすぐった。
それから旬は緩みっぱなしの表情で、ココアを一口飲むと、再び口を開いた。
「俺さぁ…あの時、ぶっちゃけ嬉しかったんだ。ナツが俺のこと心配してくれてたこととか……ナツが言ったこと」
『――これじゃあ、あたしばっかりが旬のこと好きなだけみたい……』
「え……?」
奈津美は困惑する。
あの状況で、あの自分勝手な発言が、どうして嬉しいと思えるのか……
「何か……初めてだったからさ。ナツがはっきり俺のこと心配してたとか、好きだって言ってくれたの」
視線をココアに向けて動かさずに言葉を紡いでいく旬を、奈津美はただただ見つめていた。