【短編】ダメ男依存症候群
「俺……ちょっと不安だったから……いつも、俺だけがナツのこと好きだって言って、俺だけがナツのこと好きなんだと思ってた……。ナツが俺のことどう思ってるか、自信なかったんだ。付き合い始めたのも、何だかんだ言って、俺が無理矢理ってとこもあったし……ナツは優しいから、別れようとか言えなかったりしたのかなって思ったり? …だったから、嬉しかったんだ」

 旬は、苦笑して、またココアを一口飲んだ。

「あ! でも別にナツに言われたのに懲りてないわけじゃないから! 後でメチャクチャ後悔したし!」

 すぐに慌てた様子で、旬はそうフォローを入れる。


 旬は自分のためにそこまで必死になっているのに、奈津美は、伝えなければならないことを、何一つ言えてない。

 こんな自分のために、旬はこんなに必死になってくれているのに……


「え……ナツ?」

 旬の驚いた声が聞こえた。


 奈津美は涙を流していた。誰かの前で、泣いたのは、小さい頃以来だ。

 それも、旬の前で泣いたのなんて初めてだ。


 奈津美は俯いて、声を出さずに泣いていた。


「ナツ? ごめん! 俺、また変なこと言った?」

 焦りながら旬は奈津美の顔を覗き込もうとした。


 次の瞬間、奈津美は近寄ってきた旬に抱きついた。

 ぶつかってくるように勢いよく、体重を預けるようにして抱きついてこられた旬は、よろめいて後ろに手をついたが、それでもしっかり奈津美を受けとめた。


「ナツ……?」


 奈津美には見えなかったけれど、旬はきっと呆然として、戸惑っているだろう。

 こんなことは、初めてだ。奈津美が泣いて、奈津美からこうやって旬を抱き締めたことなんて、ほとんどない。


「ナツ…どうした?」

 旬はそっと奈津美の背中に手を回した。


 旬も、どうしたらいいのか分からないというような、そんな戸惑いが、手から伝わってくる。


「旬……ごめん。ごめんね……」

 酷い涙声で、奈津美はやっと旬に謝ることができた。


< 65 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop