【短編】ダメ男依存症候群
旬の首に回した腕に、ほんの少し力を入れた。すると、旬の匂いがした。
香水などではなく、所謂人の匂い…体臭だ。今まではあまり気が付かなかったし、特に意識もしていなかったけど、今日はとても強く感じられて、奈津美の心を落ち着かせてくれた。
そうすると、涙が止まらなくなった。奈津美は、ついに嗚咽を漏らしながら、泣きじゃくった。
「ふえぇ……しゅっ、旬……ごめ…ごめんなさ、い……ごめんなさい……」
奈津美は、まるで小さい子のように、大泣きしながら何度も旬の耳元で謝り続けた。
旬に対する、色々な思いを込めて……
「ナツ? 何でナツが謝ってんの? つうか、何でそんなに泣いてんの?」
旬は、こんなに大泣きする奈津美に、パニック状態だっただろう。
それでも旬は、優しく奈津美の背中を撫でてくれていた。
「あっ、あたしも……不安…だった、の……」
さっきより酷い声になって、途切れ途切れになりながらも、奈津美は旬に自分の気持ちを話そうとした。
「あ、あたし……何でっ……旬が…あたし、と付き合ってっ…るのか、分かんなく、て……あたしはっ……旬、より…四つも上っ、だし……旬は…む、胸のおっきい人……好き、だから…それだけしか、見てない、のかもって……思っ…たり、それに……ほ、本当に、旬は、あたしが、旬の身の回りのこと…全部してくれるからって、付き合ってるんじゃ…ないかって、本当に、思ったの……旬は、あたしじゃなくても…いいんじゃ、ないかって……あたしの代わりは、他にもいるんじゃないかって……そう思ったら、すごく……嫌だった」
何でそう思っていたのだろうと、今は思う。
旬は、いつでもどこでも、奈津美に対して気持ちをさらけ出してくれていた。ちゃんと好きだと言ってくれていた。
それなのに、あの居酒屋で旬の知り合いが叩いていた軽口の方を鵜呑みにして、消極的な奈津美自身の考えをそうだと思い込んで……
初めから単純に、素直に、旬の言葉だけを信じていればよかっただけだ。