しとしと雨 【短編集】
携帯電話
俺は今日、携帯電話を失くした。
否、落とした。
駅の公衆トイレの便器の中に。
個室にある洋式トイレのそれは、俺が先程まで使っていたものだ。
立ち上がる際に、ジーンズの後ろポケットから落ちた。
拾おうかと迷った。
基本料は安いし、機能面にも優れた携帯電話だったから。
でも、トイレの底に沈んだソイツはもう手遅れだ。
それに、どこの誰が使ったのかも分からないトイレに手を突っ込むのは気が引けた。
まぁ、いいか。
この携帯電話も、もう傷だらけだったし、新しいのを買おう。
次のはもっと薄型で防水付き携帯電話にしたいな
俺は三年間程、世話になったソイツに別れを告げてトイレを出た。
あぁ、スッキリした。
そう呟いてみると、どこかで俺が気に入っていた着メロが、小さく鳴ったような気がした。