魔法世界−ファントムシティ−
第一章〜世界の闇〜
夜の闇が世界を包む時刻。
長い廊下を足音も無く歩む影が一つ。
わずかな光でさえも飲み込んでしまいそうな闇を連想させる、黒いマントを羽織り、月光のような青白い瞳を見開くその影は、どうやら人では無いらしい。
ただならぬ“気”を纏い、月明かりも届かぬ暗闇を静かに、ただひたすら歩んでいた。
その影は不意に立ち止まり腰辺りまで伸びた白髪を揺らし、空を仰いだ。
『今宵の月も美しく輝いている…。もう間もなく世界は滅びると言うのに……。皮肉なものだな…』
影は深いため息と共にポツリと言葉を零し、闇へと消えていった。
「……ト、…イト! ………ライト!!」
どこか遠くの方で俺を呼ぶ声がする…。
誰だ…?
起き上がらなければ…、けれど何故か体が鉛のように重く、起き上がれない。
指一本動かすのだって億劫だ。
まぁ、いいか…。
そう思い、寝たフリを決め込んだ俺は一度持ち上げかけた瞼を深く閉じる。
――しかし。
「寝たフリしたって無駄なんだからねっ!」
聞き覚えのある高く澄んだ声が聞こえると共に俺の体にのしかかる重み。
突然の衝撃に、思わず閉じていた目を見開く。
「……何やってんだ、お前…」
「あ。起きた」
目を見開くと、一番に視界に入ってきたのは、
陽の光のような色素の薄い金髪をセミロングぐらいまで伸ばした可愛らしい少女。
美しく整った顔に華奢な白い手足。
その美少女が俺の上に跨がっている……。