魔法世界−ファントムシティ−
そして今俺達がいる所は…―――
―――“旧校舎”、だ。
まだ仮定ではあるが、無機質なコンクリートと木の壁。
そして俺達が走って向かっていた方向的に、多分……。
っと……。今はそんな事を考えている場合じゃないんだった。
目の前の獣の黒く長い尻尾の先には…、ナナリーの手足。
国内や人が多い所にいる魔獣は、基本的には人を襲ったりしない。
……と言う事は。
この魔獣は――…
「野生、か……」
学園に来て、初日。
よく考えれば、入学式もまだなのに…。
こんなに早くリオから貰った“お守り”を使う事になるとは…。
「ティア、アミ、下がってて」
俺は怯えたように震えている二人を下がらせ、ローブの内ポケットから“お守り”を取り出す。
「グルルルル…」
魔獣はこちらを警戒しているようだ。
ナナリーは今にも泣き出しそうな表情で、でも、強い意志を宿した瞳で、獣を見下ろしていた。
魔獣はナナリーを自分の頭より高い所へ上げ、今にも振り下ろそうとしているようだった。
この魔獣…。
確か、闇属性の、『ダークネス・ウルフ』…じゃなかったっけ…?
だとしたら。
俺はとりあえずこの勝負の勝敗がわかり、安心した。
そして不覚にも、微笑んでしまった。
冷たく、黒く、冷酷に。
やべ……怯えちまったか?
まぁ、いいか。
……我ながら適当だな、俺。