魔法世界−ファントムシティ−
「…ティア、アミ、ナナリー…、とりあえず場所を変えよう。ここは…―――立入禁止になってる旧校舎だと思うよ?」
俺はナナリーに怪我が無い事を確認して地面に降ろし、辺りを見回した。
やっぱり……。
この埃っぽい空気は…長い間使われていない所の空気だ。
さっき頭に響いてきた正体不明の声が俺の本能の声なら、あまり旧校舎に長居はしない方がいいだろう。
ついでに逃げた獣の気配を探してみたが、もう近くにはいないようだ。
「行こう」
「えっ!?あ…っちょっと待って!」
「ライト!?」
俺はペンダントをローブの内ポケットにしまい込み、魔獣の逃げ去った方向に背を向け、その場を後にした―。
「―――…全く…入学式に遅刻だなんて…聞いていますか!?
ティア・リルシャスさん!
ナナリー・シャティフさん!
アミ・シャティフさん!!」
「「…はいっ!!」」
ここは蒼神国聖学園内のA棟にある職員室。
艶やかで緩くウェーブがかった茶髪を、左肩辺りで一つに束ねている、いかにも美人と言った女性教員が腕を組み、シュンとする三人の前で仁王立ちしていた。
その女性教員はツリ目気味の淡いブルーの瞳を細め、銀縁眼鏡をクイッと上げた。
シュンとする三人、と言うのは、勿論……ティア、ナナリー、アミの三人だ。
え?何で怒られてるのかって?
そりゃ勿論、入学式に遅刻したからでしょ。
え??じゃあ何で俺はお説教を受けてないのかって?
いや、そりゃ勿論……――――俺は遅刻しなかったから…だけど?
何故って……
三人より早く講堂に来れたから。
まぁ、俺もギリギリだったしな……。
ティア達はギリギリセーフな俺の後に来たんだから、当然アウト、って訳。
そのせいなのか、俺は先程から三人に睨まれている。
んな睨まなくても…。
怖ぇーよ、特にティア!!
思いっ切り恨みを込めて睨んでんじゃねぇかよ!
あーぁ、女ってまじで苦手だ…。