魔法世界−ファントムシティ−
そう言って俺らの前に現れたのはため息混じりに横髪をかき上げているアイグルだ。
アイグルの発言に、ティアは不服そうに頬を膨らませている。
「何よぉ、ちょっとくらい褒めてくれてもいいじゃないっ!」
「はっ。何言ってんだよ、図々しい。つぅか、ティア、お前って昔はもっと得意だったよな?」
いつからそんな下手くそになったんだよ、と呟いてアイグルは俺を見た。
俺は「何だ?」と尋ねる代わりに首を傾げた。
「なぁ、ライト。お前さ、何でもいいから何か別の魔法とか出来ねぇ?」
「……は?何だよ、急に…」
「いや……。ライトが何処まで出来るのか、知りたくなったというか……」
アイグルは少し唸り、困ったように頭を掻いて言葉を紡ぐ。
―――…それはつまり…、
俺の実力を試してみたいってことか……?
そう言う事なら、別に構わない。
今ここに、俺とアイグルしかいないのなら何気なく頷き、承諾しただろう。
だが、ハープ先生がいる限り、軽々しく頷くことは出来ない。
悪いがまた今度な、と軽く流そうと口を開きかけた―――ところで、校内に鐘の音が響き渡った。
授業の終わりを告げる鐘だ。
「あらぁ〜、残念。私の用意に時間がかかり過ぎたのかしら……。魔法学の実技授業、あまり進められなかったですね…」
ハープ先生が実に残念そうにぼやく。
「次の授業は室内で魔法学の基礎について学習するつもりだったのですが……、急遽予定を変更します。
次の授業もここで実技の学習をしましょう」
にっこり微笑んで、休み時間は10分間ですよ、と付け加えてハープ先生は校内へと走って行った。
多分、職員室にでも行ったのだろう。
わざわざ走って行かなくても……
魔法でも使えばいいのに。
なんて事をひそかに思いながら、その後ろ姿を眺める。
「どないした?ライト。ぼけーっとして……」
「ん、いや……何でもねぇ」