罪過
耳に触れるくちびる。

首筋にかかる吐息。

深く吐き出される息に、体が小さく震える。


「カナ…」


耳元でささやく声に、閉じていたまぶたが、ゆっくり開いた。

まぶたを開くと、ふたつの黒い瞳があたしを見つめていた。


「カナ…」

甘ったるい声が名前を呼ぶ。


男は私を見つめていた。


このヒトは、誰?

ぼんやりした意識をたぐりよせる。




雨の中にいたら、男の人が現れた。

そのヒトは、今…目の前にいるこのヒトで…


記憶が少しずつ、蘇ってくる。


車に乗って…


そうだ。


あたし、このヒトの家に連れてこられたんだ。



記憶が更に蘇る。



濡れたレインコートを脱いだら、カレがタオルであたしの髪と顔をふいてくれた。

顔をふいてるうちに、手の動きがゆっくりになった。

そして、カレの顔が近づいてきて…

あたしの口と重なった。

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