罪過
「キライ?」

ささやく声。

あたしは返事ができなかった。

くちびるが離れていく。

つむったまぶたをゆっくり開いていくと、カレがあたしを見つめていた。

黒い瞳が、じっとあたしを見下ろしていた。

「キライじゃなきゃ、スキ…?」

くちびるが、ゆっくりと動く。

上下左右に動いて形を変えるくちびるに、あたしは目を細めた。

スキ? と、カレはまた聞いてきた。


わからないのに、あたしはコクンとうなづいていた。


「そう、カナ……オレも好きだよ」


そう言って、カレはあたしの中に入ってきた。


それはとても熱くて、力強くて……


だけど、痛くはなかった。


伝わる感覚が、息もできないくらいにあたしの体を苦しくさせる。

悲鳴にも似た声が、口からあふれ出る。

しがみついた腕に、あたしは爪を立てた。

きつく、きつく食い込む爪が、皮膚に傷あとをつけると同時に、あたしは叫んだ。


「おにいちゃん……!」



< 6 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop