ならばお好きにするがいい。
ところで、試合はどうなったんだ。
結果が気になった俺は、一度保健室を離れて校庭に向かった。
決勝戦が行われていたコートの周りには、未だに物凄い人だかりができている。遠巻きにみた感じでは、試合は既に終わったようだ。
足早にコートへ向かうと、俺に気付いたクラスの奴らが一斉に駆け寄ってきた。
「先生ーッ!」
「オイ、なんで泣いてんだお前ら!負けたのか!?オイ!」
「ううん……」
「勝ったよ……!」 ぐしゃぐしゃに濡れているこいつらの顔は、もはや汗だか涙だか分からなかった。でも、その顔には喜びの色がいっぱいに浮かんでいて。思わずこっちまで嬉しくなる。
「先生ーっ!ありがとーっ!」
こんな風に生徒に囲まれるなんて初めてで、こういう時、どうすればいいのか分からない。
なんて言やいいんだ?
どんな顔すりゃいいんだ?
抱きついてきたお調子者の男子生徒を小突きながら、緩みそうになる口元をさりげなく隠した。
「お前のそんなに嬉しそうな顔、初めて見るな」
声のした方に視線を向けると、ペットボトルの水に口をつけながら、俺に向かってひらひら手を振る樫芝がいた。
「あぁ?誰が嬉しそうだって?」
「お前」
「黙れ」
「素直になりなさいよ、今日くらい」
「いやー……完敗完敗」 そう言いながら近付いてきた樫芝の手には、小さな箱。その箱を俺に手渡すと、樫芝はニコッと笑った。
「優勝おめでと」
箱を開けると、クラスの人数分あるだろうと思われる青い紙切れ。……あぁ、これが無料券ってやつか、アイスの。
その紙切れを目にした瞬間、一気に盛り上がるクラスの連中。
そんなにアイス一つ無料になるのが嬉しいかね。俺には理解の外だな。
なんて思いながらも、喜ぶこいつらの顔を見ていたら、良かったなって思えて。
わいわい歓喜の声を上げる生徒たちに囲まれながら、こういうのも悪かねーかもなと思った。