ならばお好きにするがいい。
「あっ!ねぇねぇ先生!」
突然何かを思い出したのか、結城は勢い良く椅子から立ち上がって、俺の隣にやってきた。
そしてジャージのポケットからピンク色の携帯を取り出すと、満面の笑顔で俺を見上げた。
「一緒に写真撮って下さいっ!」
「断る」
……なんて言っても、俺の意見なんて聞いちゃいねえ。
頬がくっつくくらい顔を寄せてきた結城は、携帯のカメラをこっちに向けたまま腕を延ばした。
「先生笑ってー」
笑えるか。
パシャリ、静かな教室に響いたシャッター音。
腕を戻して携帯の画面を確認した結城は、バカみたいに嬉しそうな顔をして笑っていて、思わず呆れる。
「先生、笑ってって言ったのに」
「面白くもねーのに笑えるかよ」
「でもやっぱりかっこいい。待ち受けにしちゃお」
「やめろ」
ったく……俺なんかのどこがいいんだか。
「ねぇ、センセ」
「んだよ」
「……ありがとう」
「……あぁ」
それからしばらく談笑していたら、いつの間にか空はすっかり夜色に変わっちまっていて。
食べ終えたアイスのゴミを片付けていた結城の背中に声をかけた。
「オイ、早くしろ」
「?先生、なんで私のカバン持ってるの?」
「あん?お前具合悪いんじゃなかったのか?」
「へ?」
「具合悪いなら送ってやろうと思ったんだが。元気になったなら良かった良かった。歩いて帰れ」
「え!?や……やだ!具合悪い!ものっスゴく悪い!死にそう!送って!」
「なら早くしろ」
本当に単純な奴。
馬鹿で、うるさくて、自分勝手で、泣き虫で……。俺の大嫌いなタイプのはずなのに、なぜか憎めない。
変な奴。
そんな変な奴に付きまとわれることに慣れちまってる俺も変な奴……だな。