ならばお好きにするがいい。
背後から突然聞こえた声に驚いて振り返ると、そこには見慣れない私服姿の見慣れた顔があった。
「か……かかか樫芝先生っ!?」
「やぁ」
「私服!?」
「え、驚くとこそこ?まぁ確かにいつもジャージだもんね、俺」
ピンクのポロシャツに、ゆるめなジーパンというラフな格好の樫芝先生の手には、スーパーのビニール袋が握られていた。
「大きなセミがいるなーと思って来てみたら。こんなところで何をしているんですか莉華サン?」
「セミたちを率いてオーケストラをしていました。って、そんなことはどうでもいいのです!それより小田切先生が元気じゃないってどういうことですか!」
私が問いかけると、樫芝先生は眉を八の字にして、手に持っていたビニール袋を私に渡した。
中を見てみると、薬やら栄養ドリンクやら果物やら、典型的な病人に必要なものたちがぎっしり詰まっている。
「風邪引いたんだって、雅人」
「え!?」
「だからおつかい頼まれたのよ、俺」
「せっかくの休日なのにー」 樫芝先生はふぁ、と大きなあくびをすると、私の手からビニール袋を取った。
「で、今からこれを届けに雅人の家に行くところなんだけどー……」
「私も行く!」
「あ、やっぱり?そうくると思った」
訊かれてもいない質問に私が即答すると、樫芝先生はニヤリと口角を上げた。
「よし、じゃあ行こ行こ」
「さっすが樫芝先生ーっ!」
「いぇ~い」
さっきまでのダルさはどこへやら。
私はわくわくと胸を踊らせて、小田切先生の家に向かう樫芝先生の後ろに続いた。