ならばお好きにするがいい。
「無理だよ……」
小さくそう呟くと、先生がギロリと私を睨んだ。
その瞬間、私は初めて先生を怖いと思った。
「……俺はな、努力もしねーうちから出来ねー出来ねー言う奴が大嫌いなんだ」
威嚇してるような、いつもより低い声。
先生、すごく怒ってる。
「次の小テスト、もし60点以下だったら、必要最小限のこと以外、二度とお前と口をきかない」
え……?
「二度とお前と口をきかない」って……ええぇぇえぇえええぇぇえぇえええぇぇえぇえッ!!!!!!?
「じゃ……じゃあ、また絵を描いても……」
「見ない」
「そ、そんなのやだ!」
「だったら60点以上取れ」
先生は無表情のまま、じっと私を見据えている。
どうしよう……。
数学で60点なんて、高校入学してから一度も取ったことないのに……。
でも……。
「わ、分かった!頑張る!取る!60点以上取る!」
先生に嫌われるのだけは絶対にイヤ……!
「ふーん……なら頑張れよ」
「もし取れたらご褒美ちょーだいね!」
「なんでだよ。60点なんて普通は取れて当然……」
「約束ッ」
先生の言葉を最後まで聞かずに職員室を出た私は、急いで教室に戻って、今まで授業中以外は開くことのなかった数学の教科書を机の上に広げた。