ならばお好きにするがいい。

お嫁さんごっこ

 
「先生、寝てた?」

「ん……いや」


静かに寝室に入ると、私の気配に気付いた先生がゆっくりと体を起こした。


「……爆発は起こさなかったみてーだな」

「爆発って?」

「お前のことだから爆発のひとつやふたつ起こすんじゃねーかと思って覚悟してたんだが」

「そこまで言うならここで爆発してやりましょーか?」

「冗談だよ」


先生がくくっと笑ったから、私もつられて笑う。


サイドテーブルに料理が乗ったお盆を置くと、先生はそれを見て目を丸くした。


「へぇ……形にはなってんだな」

「爆発しますよ」

「はは」


お盆の上で、いい匂いの湯気を昇らせる玉子のお粥とネギのスープ。


「まぁ、匂いは合格だな」


お粥の入った器に延びた先生の腕を掴むと、先生は私を見て怪訝な顔になった。


「先生待って」

「なんだよ。爆発すんのかコレ?」

「爆発はしません」

「じゃあいいだろ。昨日から何も食ってなくて腹減ってんだよ」


私はスプーンを手に取ってお粥を掬うと、そのまま口を尖らせる先生に向けた。


少し開いた薄い唇の前で、スプーンに乗ったお粥は湯気をくゆらせる。


「先生、あ~ん」


私がそう言うと、先生はブッと吹き出した。


「先生、あ~んして!あ~ん!」

「アホか!ベタにもほどがあんだろ!自分で食えるっつーの……──!」


そう言って大きく開いた先生の口に、スッとスプーンを差し込んだ。「やられた」と一瞬眉をひそめた先生だったけど、その顔はすぐに柔らかくほぐれた。


「……い」

「え?」


ポソッと吐き捨てるように呟かれた言葉。


「……うまい」

「え?」

「……うまい」

「え?」

「だあああああああああっ!しつけえええええええ!うめぇっつってんだよ!何回も聞き直すんじゃねえ!志村けんのおばあちゃんコントかテメェは!」


聞きたかった言葉。本当は最初から聞こえてたけど、何回も聞きたくて。最後は褒められながら怒鳴られたけど、嬉しくて嬉しくて、自然と笑顔になっていた。





< 124 / 167 >

この作品をシェア

pagetop