ならばお好きにするがいい。
お嫁さんごっこ
「先生、寝てた?」
「ん……いや」
静かに寝室に入ると、私の気配に気付いた先生がゆっくりと体を起こした。
「……爆発は起こさなかったみてーだな」
「爆発って?」
「お前のことだから爆発のひとつやふたつ起こすんじゃねーかと思って覚悟してたんだが」
「そこまで言うならここで爆発してやりましょーか?」
「冗談だよ」
先生がくくっと笑ったから、私もつられて笑う。
サイドテーブルに料理が乗ったお盆を置くと、先生はそれを見て目を丸くした。
「へぇ……形にはなってんだな」
「爆発しますよ」
「はは」
お盆の上で、いい匂いの湯気を昇らせる玉子のお粥とネギのスープ。
「まぁ、匂いは合格だな」
お粥の入った器に延びた先生の腕を掴むと、先生は私を見て怪訝な顔になった。
「先生待って」
「なんだよ。爆発すんのかコレ?」
「爆発はしません」
「じゃあいいだろ。昨日から何も食ってなくて腹減ってんだよ」
私はスプーンを手に取ってお粥を掬うと、そのまま口を尖らせる先生に向けた。
少し開いた薄い唇の前で、スプーンに乗ったお粥は湯気をくゆらせる。
「先生、あ~ん」
私がそう言うと、先生はブッと吹き出した。
「先生、あ~んして!あ~ん!」
「アホか!ベタにもほどがあんだろ!自分で食えるっつーの……──!」
そう言って大きく開いた先生の口に、スッとスプーンを差し込んだ。「やられた」と一瞬眉をひそめた先生だったけど、その顔はすぐに柔らかくほぐれた。
「……い」
「え?」
ポソッと吐き捨てるように呟かれた言葉。
「……うまい」
「え?」
「……うまい」
「え?」
「だあああああああああっ!しつけえええええええ!うめぇっつってんだよ!何回も聞き直すんじゃねえ!志村けんのおばあちゃんコントかテメェは!」
聞きたかった言葉。本当は最初から聞こえてたけど、何回も聞きたくて。最後は褒められながら怒鳴られたけど、嬉しくて嬉しくて、自然と笑顔になっていた。