ならばお好きにするがいい。
 
「先生、私いいお嫁さんになれるかな?」

「あー……なれるんじゃねぇか?」

「やった!」

「別に俺の嫁とは言ってねぇけどな」

「意地悪っ!」


先生はサイドテーブルに置いてあった樫芝先生の差し入れだと思われるゼリーを手に取ると、「やる」とだけ言って私にくれた。先生のお見舞いの品をいただくのはなんだか悪い気がして、スプーンで掬って一口差し出したら、それを口に含んで、「甘ェ」って首を横に振った。また間接キスだなって思いながらゼリーを口に運んだら、いつもよりずっと甘く感じて、舌が痺れた。


「先生って自炊しないんだね」

「メシは作るもんじゃなくて買うもんだ」

「ふふ」

「……なに笑ってんだよ」

「先生って完璧な人だと思ってたから。出来ないこともあるんだなーって思って嬉しくなったの」

「何だよ、それ」


そんな他愛のないやりとりがすごく楽しかった。


スーツ姿の先生と話すのとは、また何か違う。Tシャツにスウェット姿の先生と話していると、先生と話しているというより、男の人と話しているという感覚の方が強くなる。


先生のことを、いつもよりずっとずっと男性として意識してしまう。


先生のお嫁さんになったら、毎日こんな風に先生とお話しできるんだ。


幸せだろうな……。



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