ならばお好きにするがいい。
 
「なに机に八つ当たりしてるのよ、お前は」


そう言いながら、樫芝先生は私の隣の椅子を引いてストンと腰を下ろした。


「ってなに、まさかお前勉強してるの?珍しー」


私の数学の教科書を覗き込んだ樫芝先生は、目を真ん丸くした。


「しかも数学って。また雅人に何かイジワル言われた?」

「うぅ……樫芝せんせ~ぇ……」

「なんだ図星か。おーよしよし、可哀想に。泣くな泣くな」


樫芝先生は手元の自分の本に視線を向けたまま、私の頭をぽんぽんと軽く撫でた。


「雅人も悪い男だねー。こんな可愛い子を泣かせるなんて」

「樫芝せんせ……」

「じゃ、頑張ってネ」

「いやいやいや、ちょっと待ってッ!!!!!!!」


立ち上がった先生のジャージの袖を、私は慌てて引っ張った。


「ん!なにした?」

「いや、「頑張ってネ」じゃなくて!教えて下さいよ数学!」

「だって俺体育のセンセーよ?数学なんて出来ないもん」

「それでもセンセーなんだから私よりはできるでしょ!どーせ暇なら付き合って下さいっ!」

「おいおい誰が暇だって?俺どっからどー見ても優雅に読書中でしょーが」


見せつけるかのようにわざとらしく本のページを捲りながら、樫芝先生は口を尖らせた。


「やだやだやだー樫芝先生行っちゃやだー」

「こら離しなさい。ジャージ伸びちゃうだろ」

「ここにいてくれるなら離す。いてくれないなら思いっきり引っ張ってジャージびよんびよんにする」

「先生を脅迫しないの」



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