ならばお好きにするがいい。
それにしても、どこに向かってるんだろう……。
こんな真っ暗な山の中に、一体何があるんだろう?
もしかして、カブトムシでも採りに行くのかな?
「先生」
「ん?」
「カブトムシ採るなら木に蜜塗らないと。ちゃんと蜂蜜持ってきました?あと奴らは明るいところに集まるから、カンテラとか……」
「……何の話をしてるんだお前は?」
「え……カブトムシ……」
先生は少しの間、首を傾げていたけど、すぐに「あぁ」と納得したような表情になって、くつくつ笑い始めた。
「悪いな。今日は蜂蜜もランプも持ってきてねぇんだ。カブトムシはまた今度な」
先生は私の頭をポン、と撫でると、車を止めた。
「着いたぞ、降りろ」
先生は車のエンジンを切ると、ドアを開けて外に出た。
慌ててそれに続いて外に出ると、目の前に広がった光景に、思わず言葉を失った。
すとん、と切り抜いたみたいに開けた木々の向こうに、キラキラ眩しい金色の宝石を散りばめたみたいな夜景が広がっている。
「どうだ?」
絵の中にでもいるかのような錯覚に陥るほど綺麗な夜景を前にして言葉をなくしている私に、先生は自慢気にそう尋ねた。
「綺麗……びっくりした……すごく」
「いいだろ。俺の秘密の場所なんだ」
「ヒマワリの礼だな」 なんて照れ臭そうに笑う先生に、心臓をぎゅっと掴まれる。
小高い山の上からは、下に広がる街が一望出来て、宝石箱を引っくり返したような眩い景色がどこまでも広がっていた。