ならばお好きにするがいい。
くつ、と頭の上で聞こえた小さな息遣い。
ゆっくり頭を上げてみると、思わず目を見開いた。
「誰がいつご褒美やるなんつったよ、バーカ」
先生が、笑っていた。
目を細めて、白い歯を少しだけ覗かせて。
言葉は意地悪なのに、その笑顔はどうしようもなく優しい。
先生は私の手から教科書を取ると、ぽん、と私の頭に手を乗せた。
「教えてやる」
先生は「ここでいいか」と、すぐ目の前の美術室の扉を開いた。
「丁度誰もいねーや。おい、いつまでもぼーっと突っ立ってないで早く来い」
「センセ」
「あん?」
「好きっ!」
先生は一瞬目を見開くと、すぐにぷいっと背を向けた。
「馬鹿なこと言ってんじゃねーよバカ、早く来い!」
ちょっとだけ早口になった先生は、後ろを向いたまま私を手招きした。
明るい窓際の席に座った先生。
先生の向かいに座ろうとしたら、「こっち座れ」と自分の隣の椅子を指差した。
「先生の……となり……?」
「なんだ嫌か?嫌なら別に……」
「ううんっ!」
私は転がり込むように、急いで先生の隣に腰かけた。
「幸せ!」
そう言って先生を見上げたら、先生は呆れたように、でも、やっぱり優しい目で、私を見てくれた。