ならばお好きにするがいい。
そして、日も沈んで、空が薄紫に色付き始めた頃……。
「できたあああっ!」
私の歓喜の声が、静かな美術室に響き渡った。
「先生みてみて!解けた!自分で解けちゃった!」
「見てたよ。良かったな」
先生はふーっと首をコキコキ鳴らして、ぐっと背伸びをした。
「やばいぞ!私今ならなんでも解ける気がする!ポアンカレ予測の証明とか出来ちゃう気がする!」
「ポアンカレ予測って……世界有数の難問じゃねえか。バカのくせになんでそんなもん知ってんだよ」
「いつか解こうと思って名前だけ覚えたんです、小学生の頃!」
「『単連結な3次元閉多様体は3次元球面S3に同相であるか』」
「……へ?」
「ポアンカレ予測。証明出来んだろ?」
ニヤッと意地悪な笑みを浮かべて、先生は私を見た。
初めて見るイタズラっ子みたいな先生の表情に、大きく胸が跳ねる。
先生……可愛い……!
先生は赤ペンを握って、私が解いた問題に大きな丸をつけてくれた。
「思ったほど基礎からボロボロってわけでもねーよ、お前。これからちゃんとやってけば、人並みには出来るようになるかもな」
教科書でぽん、と頭を叩かれて、そんなこと言われれば、これからちゃんとやろうって思えちゃうのが不思議。
「さて、そろそろ帰れ。もう6時だぞ」
「なに言ってるの雅人、夜はまだまだこれからよ」
「殴るぞ」