ならばお好きにするがいい。
 
「あーあ……怒られちゃった~雅人のせいで」

「うるせーよ」


樫芝先生はふいっと壁にかかった時計に目を向けてから、小田切先生に視線を移した。


「さてと。残りの見回りは俺がやっておくから、雅人は莉華のこと昇降口まで送ってあげなさい」


樫芝先生のその一言に思わず心の中でガッツポーズ。


樫芝先生グッジョブ!!!


「あぁ、頼む」


小田切先生が頷いたのを確認すると、樫芝先生は小田切先生にくるっと背を向けて、私の方に向き直った。


そして、私の耳にそっと口元を寄せて、「良かったね」って小さく囁いた。


樫芝先生ってばいい人すぎる……!


「樫芝先生、ありがとうっ」

「ん!じゃーね」


樫芝先生はニコッと笑って私の頭を軽く撫でると、入ってきた時とは別のドアから出ていった。


「ほら、早く帰る支度しろ」


樫芝先生の後ろ姿を見送ると、小田切先生が机の上に出しっぱなしの教科書を指差した。


「まだ帰りたくない。せっかく先生と二人きりなのに~……」

「馬鹿なこと言うな。窓の外見てみろ、真っ暗だぞ」


わざと支度をもたつかせていると、小田切先生がコンッと私の頭を叩く。


「早くしろ」

「むー……」

「聞こえねーか?」

「……先生はそんなに私といたくないの?」


なげやりにそんなことを訊いてみたら、小田切先生の手が伸びてきた。


デコピンがくると思って反射的に身を縮めたのに、その手は私の予想を大きく裏切って。


「……夜道を一人でプラプラ歩くのは危ねーって教わらなかったのか?」


大きな手は、包み込むように私の頭を優しく撫でた。


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