ならばお好きにするがいい。
黙って大人しく撫でられていたら、優しい表情の小田切先生と目が合った。
「先生……心配してくれてるの?」
そう尋ねると、先生はパッと私の頭から手を離して、ぷいっと顔を背けた。
そして、一言。
「馬鹿なことを訊くな。行くぞ」
そんな素っ気ないセリフを吐いて、わざとらしく音を立てて椅子から立ち上がった。
小田切先生が電気をバチッと消したから、私は慌てて真っ暗になった教室から飛び出す。
全校生徒が下校してしまった学校の廊下は恐いくらいに静かで不気味。
蛍光灯も消されていたから、窓から射し込む月明かりが、ぼんやり廊下を照らしていた。
「何ボーッとしてんだ、早く来い」
声のした方に振り返ると、薄暗がりの中に浮かぶ背の高いシルエットが私を手招きしている。
「せんせ、待って!」
急いで駆け寄ろうとしたら、足がもつれて転びそうになった。
「わ……!」
ぐら、前のめりになる身体。
思わず、ぎゅっと目を瞑った。
でも、いつまで経っても身体が倒れない。
恐る恐る目を開けてみると……。
「……ったく、危なっかしい奴だな」
床に転がっているはずの私の身体は、小田切先生の厚い胸板の上にあった。