ならばお好きにするがいい。
「……具合でも悪いのか?」
しばらくして、頭の上に降ってきた小田切先生の低い声。
その声を聞いた瞬間魔法が解けて、私の身体は先生から離れた。
「ううん。大丈夫」
「……そうか」
「……うん」
「なら行くぞ」
身を翻して、何事も無かったかのように歩き出した小田切先生。
その背中を足早に追いかける。
それから小田切先生は昇降口まで送ってくれたけど、その間私たちの間に会話は無かった。
先生の後ろを歩いている間、胸がいっぱいで、言葉なんて発する余裕がなくて。
もちろん私が話さなければ、先生も口を開かない。
月明かりの廊下に響いたのは、ふたつの足音だけだった。
「じゃあな。寄り道すんなよ」
別れ際、小田切先生が小さく微笑んでくれたのがすごく嬉しかった。
「うん、先生さよーなら」
「あぁ、気を付けて」
先生に背を向けて、今度は一人で歩き出す。
一歩、また一歩、先生に見送られながら。