ならばお好きにするがいい。
……ん?
私はガバッと振り返って、まだそこに立っていた小田切先生に駆け寄った。
「先生!!!!!」
「な゙……なんだよ!?急に振り返んなよ怖ェな!!忘れモンでもしたか?」
「今なんて言いました!?」
「あん!?忘れモンでも……」
「その前の前の前くらい!」
「前の前の前ェ!?」
小田切先生は髪を掻き上げながら、頭の上にたくさん?マークを浮かべていた。
「んもう!思い出せないんですか!?『気を付けて』って言いました!!」
「……それがなんだよ」
「先生、やっぱり私のこと心配……」
バチン。
言い終わる前に、お約束のデコピン。
「い゙ッ……」
「馬鹿なこと言ってないでさっさと帰りやがれ。んなこと言うためにわざわざ戻ってきたのかバカヤロー」
ハーッと長い溜め息をついた小田切先生は、いつものポーカーフェイスに戻っていた。
「帰ったらちゃんと数学やれよ。俺はあの約束忘れちゃいねーからな」
「わ、分かってますよーだっ」
「なら早く帰れバカ」
「フンだ!先生ばいばいっ」
わざと拗ねながら先生に背中を向けて歩き出した。
その時
「気を付けろよ」
後ろから小さく聞こえた低い声。
思わず後ろを振り返ると、私に背を向けて校舎に向かって歩く小田切先生の姿が見えた。
その後ろ姿は、なんとなく恥ずかしそうに、ギクシャクしているように見えた。
「気を付けろよ……って、先生……」
思わず笑みが溢れる。
「うんっ、気を付ける!先生大好きありがとーっ!」
どんどん小さくなる先生の後ろ姿にそう叫んだ私は、軽い足取りで家路についた。