ならばお好きにするがいい。
帰宅するとすぐに、私は机に向かった。
鞄から数学の教科書を引っ張り出して机の上に広げる。
「よしっ」
カチカチとシャーペンを数回ノックしたら、問題とにらめっこ開始。
「……およ?」
しかし、思わず首を傾げる。
小田切先生に教えてもらった時は理解出来たのに、改めて自分1人でやってみると全然分からない。
「あ……れ~?」
それから長い間目の前の問題たちと格闘したものの……。
「だめだあぁぁ~……」
あえなく撃沈。
私はパタリと机に伏した。
「無理無理無理無理なにこれ。私さっき本当に自分でこれ解けたの?ありえない……まさかさっきの夢だったんじゃ……」
チラ、とノートに視線を向けると、目に飛び込んできた大きな丸。
「……ない……よね、やっぱり」
さっき先生がつけてくれたその丸を、指でそっとなぞってみる。
「……せんせ、わかんないよ」
変なの。
さっきと同じ問題なのに、さっぱり分からない。
このちんぷんかんぷんな問題文も、さっき先生の声で読み上げられた時は、スルスル頭に入ってきた。
もしかして先生って、魔法使いなんじゃないのかな。
──「60点以上取らなかったら二度とお前と口をきかない」
先生のあの言葉が、ふっと頭の中に甦る。
「……頑張らなきゃ」
私は体を起こして、ぐいっと背伸びをした。
それからシャーペンを握り直して、再び問題に向き直る。
何時間くらい勉強したんだろう……。
いつの間にか、私は机で寝てしまっていた。
気付いたらカーテンの隙間から黄色い朝日が射し込んでいて。
鏡を見たらほっぺにくっきりと教科書の痕がついていた。