ならばお好きにするがいい。
 
「おら、そろそろ帰んぞ」


ちょっと乱暴に椅子から立ち上がった先生が、私の荷物を肩に担いだ。


「帰る……って?」

「アホか。お前、倒れてからずっと爆睡してたんだろーが。時計見てみろ、もう下校時間だぞ」


そう言われてみれば、確かに窓から射し込む光はオレンジ色で。


先生が指をさした先に視線を移せば、短い針が5と6の間を指していた。


「それとお前、ちゃんと笹原に礼言っとけよ。休み時間ごとに見舞いに来てたみたいだぞ」

「聡未が?」

「このお前の荷物まとめたのもアイツみたいだしな」


「ほんとに手ェかかるわねアンタは!」って怒りながら、心配そうな顔をする聡未が頭に浮かんだ。


「聡未は私のお姉ちゃんだから」

「……バカな妹を持って笹原は大変だな」

「うるさーいっ」


先生はくくっと小さく笑うと、私の髪をくしゃっと掻き混ぜた。


「ほら、行くぞ」

「へ?どこに……?」

「んっとにテメェは……いちいち言わなきゃ分かんねーのか」

「バカですからね」

「あーそーでした」


先生は私をベッドから立たせて、几帳面に布団を畳んだ。



「送ってやるっつってんだよ」



予想もしなかったその一言に、思わず耳を疑う。


驚いて言葉が出ない私を見ると、先生は少し満足そうな表情を浮かべた。


「なんだ?嫌なら無理しなくてもいいんだぜ」

「ちがくて!ちょっとビックリしちゃったの!先生が珍しく優しいこと言うから!」

「んな寝起きの目ヤニくっつけたツラでふらふら街ん中歩かれたら、うちの学校の評判が下がって逆に迷惑だからな。まあ、お前が歩いて帰りたいっつーなら無理に止めたりしねぇけど」

「え!?う、ううん!!やだ!!先生の車乗る!!送ってもらうっ!!送ってください!!」


慌てて先生に飛び付けば、「なんだ、もう元気じゃねーか」って頭の上から降ってくる笑い声。


それがすごく心地よくて。


こういう気持ちを幸せって言うんだろうなあ、って思った。



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