ならばお好きにするがいい。
 
先生、好き。


こういうところが、好きなの。


「ん」


おもむろに、先生がジューススタンドに置かれていた一本の缶を私に手渡した。


「なに……?」

「やる。具合良くなったら飲め」


ひんやりと冷たい缶には、うっすらと水滴が付いている。


「ココア……?」

「好きだろ?」

「え?」

「……いや、なんでもねぇ」


先生はつい、と私から目を逸らすと、ジューススタンドに手を伸ばして缶コーヒーを手に取った。



「……うん、ココア大好き」



先生、なんで私の一番好きな飲み物知ってるんだろう……。


先生にココアが好きだ、って言ったことないはずなのに。


先生はエスパーなのかな……なんて、ベタなツッコみがしたくなるほど、不思議で、不思議で、嬉しかった。


先生には、私の心の中が丸見えなのかもしれない。



「先生ありがとう。一生大事にするね」

「一生大事にするな。さっさと具合治してさっさと飲めよ、腐るだろーが」


缶コーヒーを傾けながら、先生はお馴染みの呆れたような溜め息を漏らした。


「ほら、またぶっ倒れる前にさっさと帰って寝ろ」


先生が車から降りたから、私も続いてドアを開けた。



また、この助手席に乗れますよーに。



心の中で、そう小さくお祈りして、私はゆっくり車から降りた。


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