ならばお好きにするがいい。
「ん……小田切……せん、せ……」
いつもより掠れ気味の甘えた呻き声に名前を呼ばれて、俺は助手席に視線を落とした。
しかし相変わらず、小さい寝息を立てている犬っころ。
……寝言か。
つーか……なんつー声で呼ぶんだよ、このバカ。
「せんせ……」
また。
オイ……いくら熱があるとはいえ、無防備にも程があるだろ。
相手が俺じゃなくてロリコンの変態だったらお前、確実に喰われてんぞ。
「なんだよ。お前起きてんのか?」
「先生は、いつになったら……フリーザ倒すの?私の……戦闘力は……53万……です……」
「寝てんのか。つーかどんな夢みてんだお前、しかも強ェなオイ。お前がフリーザじゃねーか」
たまに、笑わせられる。
こいつのアホな言動を少しでも面白いと思ってしまうのは、限りなく不本意なんだが。
「せんせ……」
「なんだよやっぱりお前起きてんのか?」
「わたし……60点……とれたよ……」
……んなこたァ知ってるよ。
採点したの俺だし。
「せんせ……ありがと」
夢遊病のように呟かれた感謝の言葉は、俺の心を小さく揺らして。
ほとんど無意識に伸びた手は、小さな頭を優しく撫でた。
「んっとにテメェは変な奴だな……」
俺に頭を撫でられながら幸せそうに眠るこいつは、本当に犬みてぇだと思った。
馬鹿が付くほど従順で、素直で。
そんな犬の世話をしてやんのも悪くねぇかもしれねーな、と思ってしまった俺は、一体どうしちまったんだ……。