ならばお好きにするがいい。
俺はジューススタンドに立てておいたココアを手に取った。
さっきまで、氷のう代わりを努めてくれていたアイスココア。
回りに薄く水滴が着いたそれを結城に手渡す。
すると予想通り、間抜けた顔で首を傾げた。
「ココア……?」
「好きだろ?」
言ってすぐに後悔。
「……いや、なんでもねぇ」
「なんで知ってるの?」 そう言いたげに揺れた瞳から慌てて目を逸らした。
……だって、言えねぇだろ。
お前の机にはいつもココアが置いてあって、休み時間の度に幸せそうにそれを飲んでる姿を遠巻きに見ながら、「どんだけココア好きなんだよ」って密かに笑っていたこと。
絶対言えるわけねーだろ。
……ここ最近、気付けばお前のこと観察してるだなんて。
「……うん、ココア大好き」
少し間を置いてから、結城が笑みを浮かべて顔を上げた。
「先生ありがとう。一生大事にするね」
たかが120円のジュース1本でこの喜び様。アホ過ぎるにも程があるだろ。
120円でそんな笑顔見せられたら、“たかが”なんて言えなくなる。