ならばお好きにするがいい。
 
俺はジューススタンドに立てておいたココアを手に取った。


さっきまで、氷のう代わりを努めてくれていたアイスココア。


回りに薄く水滴が着いたそれを結城に手渡す。


すると予想通り、間抜けた顔で首を傾げた。


「ココア……?」

「好きだろ?」


言ってすぐに後悔。


「……いや、なんでもねぇ」


「なんで知ってるの?」 そう言いたげに揺れた瞳から慌てて目を逸らした。


……だって、言えねぇだろ。


お前の机にはいつもココアが置いてあって、休み時間の度に幸せそうにそれを飲んでる姿を遠巻きに見ながら、「どんだけココア好きなんだよ」って密かに笑っていたこと。


絶対言えるわけねーだろ。


……ここ最近、気付けばお前のこと観察してるだなんて。



「……うん、ココア大好き」



少し間を置いてから、結城が笑みを浮かべて顔を上げた。


「先生ありがとう。一生大事にするね」


たかが120円のジュース1本でこの喜び様。アホ過ぎるにも程があるだろ。


120円でそんな笑顔見せられたら、“たかが”なんて言えなくなる。




< 51 / 167 >

この作品をシェア

pagetop