ならばお好きにするがいい。
 
車に戻った俺は、コーヒーを一口飲みながら、さっきまであいつが座っていた助手席に視線を向けた。



──「あは……うち、みんな忙しいから!お父さんもお姉ちゃんも帰ってくるの夜遅いんだ!」



明らかにから元気な結城の声が、脳内でフラッシュバックする。



……いや、いくら担任と言えども、他人の家庭に首は突っ込むもんじゃねェだろ。


大体、俺は他人の面倒事に巻き込まれんのはご免こうむる。


……なのに。


あの時のあいつの表情が脳裏に焼き付いてどうしても離れねぇ……。



俺は鞄からファイルを取り出して、パラパラとページを捲った。


生徒の個人情報を保管してある大切なファイル。


「……」


こういうことはすべきじゃねぇと思いながらも、俺は結城のページを開いていた。


家族構成……。


結城 芳久、香織、莉子、莉華……。


……やっぱりだ。



──「お父さんもお姉ちゃんも帰ってくるの夜遅いんだ!」



気掛かりだった、“お父さんもお姉ちゃんも”


書かれた家族構成を見る限り、母親はいる……はずなのに。


どうしてあの時“お母さん”は言わなかったんだ?



< 54 / 167 >

この作品をシェア

pagetop