ならばお好きにするがいい。
車に戻った俺は、コーヒーを一口飲みながら、さっきまであいつが座っていた助手席に視線を向けた。
──「あは……うち、みんな忙しいから!お父さんもお姉ちゃんも帰ってくるの夜遅いんだ!」
明らかにから元気な結城の声が、脳内でフラッシュバックする。
……いや、いくら担任と言えども、他人の家庭に首は突っ込むもんじゃねェだろ。
大体、俺は他人の面倒事に巻き込まれんのはご免こうむる。
……なのに。
あの時のあいつの表情が脳裏に焼き付いてどうしても離れねぇ……。
俺は鞄からファイルを取り出して、パラパラとページを捲った。
生徒の個人情報を保管してある大切なファイル。
「……」
こういうことはすべきじゃねぇと思いながらも、俺は結城のページを開いていた。
家族構成……。
結城 芳久、香織、莉子、莉華……。
……やっぱりだ。
──「お父さんもお姉ちゃんも帰ってくるの夜遅いんだ!」
気掛かりだった、“お父さんもお姉ちゃんも”
書かれた家族構成を見る限り、母親はいる……はずなのに。
どうしてあの時“お母さん”は言わなかったんだ?