ならばお好きにするがいい。
トクン、胸が跳ねた。
「上手いな、絵」
トクン、また跳ねた。
頭に置かれた手の温もりに、じわじわと体の芯を溶かされていくような不思議な感覚。
頭はだんだんぼんやりしていくのに、心臓は痛いくらいにどんどん激しく脈打って。
そして、私の中にぽっかりと生まれた“好き”
恋の始まりは突然、こんなにも単純なきっかけで訪れた。
「センセ」
「ん?」
「あのッ……また、描いたら見てくれませんか?」
「……ああ、描いたら持ってこい」
頭から、ふわりと離れた大きな手。
「じゃあな、気ィつけて帰れよ」
離れていく背中に、慌てて声をかけた。
「先生……!」
「小田切」
「?」
「小田切 雅人(オダギリ マサト)だ、結城 莉華」
ゆっくり振り返って、小さく微笑んでくれた小田切先生は、窓から射し込む夕陽を浴びて、目が眩むほどにきらきらと輝いていた。
あれは夕陽のせいだったのか、それとも先生自体が眩しかったのか。
「小田切、雅人……先生」
だんだん小さくなっていく先生の後ろ姿を、私は見えなくなるまで見つめていた。