ならばお好きにするがいい。
60点の壁
「で、その日は徹夜で絵を描いて、次の日その大量に描いた絵を先生のところへ持っていった……と」
「そーゆーこと!」
「バカか」
先生に恋したきっかけの甘いエピソードを熱く語ると、聡未(サトミ)は呆れたようにため息をついた。
「だって先生が持ってこいって言ったんだよ!?」
「じゃあ、その絵を見た先生のリアクションは?」
「ちゃんと褒めてくれたもん」
「へー」
「……最初の3日は」
聡未の笑顔がヒクッと引きつる。
「アンタまさか……」
「うん、毎日いっぱい描いて毎日持ってった」
確か、最初の3日は褒めてくれたんだよね。
でも3日目過ぎた辺りから「毎日毎日そんなに描くのは大変だろ。だからたまにでいい」って言われて……。
2週間経った頃に「もう充分だ」って言われて……。
そして今では……。
「おい結城!!!!!!!!」
廊下に轟いた私の名前。
教室の中にいてもハッキリと聞こえた。
この低くてよく通る声は……!
「小田切先生!」
「バカ野郎」
「痛ッ!!!!」
廊下にひょこっと飛び出した瞬間、バチンとおでこに電流のような痛みが走った。
私のおでこに強力なデコピンを食らわせた小田切先生が、眉間にこれでもかと言わんばかりにシワを寄せて私を見下ろしている。