ならばお好きにするがいい。
「よし、あと一人だぜー!」
「おーっ!」
盛り上がる相手チームに思わずひるむ。
容赦なく飛んでくるボールをひらひら避けながら、泣きたい思いを必死に堪えた。
一人でも、勝てる。
一人でも、勝たなきゃ。
そう思うのに、コートに一人残されたこの状況では、簡単に心が折れそうになる。
だめかもしれない。
だめかもしれない。
やっぱり一人じゃ勝てないかもしれない……。
「わ……っ!」
その時、疲れでふらりと足がもつれて、私はトスンとしりもちをついた。
あ……!
急いで立ち上がろうとした時には既に、ラインを挟んだ向こう側に、ボールを持った樫芝先生が立っていて。
「ごめんね、莉華。最初にも言ったけど、本気だからさー俺」
「非道だとは自分でも思うんだけど」 にっこり微笑んだ樫芝先生は、ボールを持っている方の腕を大きく振り上げた。
「手加減しなーいよ」
ボールが風を切る音。
……もうだめ。
……負けちゃう。
やっぱり……一人じゃ勝てないよ……。
ぎゅっと目を閉じて、体を縮める。
ドンッ、と響いた大きな鈍いボールの音。
……おかしい。
ボールが当たったはずなのに、全然痛くない……。
恐る恐る目を開く。
そしてすぐに目を疑った。
だって……。
「……よお、なにしに来たの囲碁部?」
「うるせーんだよ、バカ芝」
目の前には、見慣れたスーツの後ろ姿があったから。