ならばお好きにするがいい。
 
「ねぇ先生」

「なんだよ」

「なんで自分で掃除しようって思ったの?明日樫芝先生に言って生徒に掃除させれば良かったのに」


いつもは埃ひとつついていない先生の黒いスーツが、ドッジボールと掃除のせいで、今は真っ白になっている。


「……お前、最近は自分でやってるみたいだが、こないだまで数学の課題自分の力で解いてたか?」

「へ?」


ななな、なんでそこで数学の課題の話になるの……?


確かに、あの小テストで先生に褒められて以来、自分の力で数学の課題はやるようになったけど、その前までは……。


「……ごめんなさい、聡未の写させてもらってました」

「やっぱりな」


「課題は完璧なくせにテストはボロボロなもんだから、どうせそんなこったろうと思ってたけどな」 先生はふん、と鼻で笑うと、私に向き直った。


「それと同じことだよ」

「え?」


先生の言ってる意味が分からず混乱していると、先生はふ、と笑う。


「自分のことは自分でやらねーとだめだってことだよ。他人任せは一番やっちゃいけねーことだ」

「他人、任せ……」

「そうだ。他人に任せても、目先は楽かもしれねーが、得るもんなんて一つも無ェ。
お前もそうだろ?笹原の課題丸写ししてた時より、自分で必死に課題こなすようになった今の方が、ずっと賢くなったじゃねーか」


柔らかくて、でもとても真剣な先生の眼差しから、目が離せない。


「掃除も同じだよ。
そりゃあ職員室に生徒呼んで椅子に座ったまま『倉庫掃除してこい』って言うのは簡単だ。
でもな、そんな偉そうな態度した奴に押し付けられた仕事を、そいつらが真面目に受けると思うか?
どうせ適当にやって終わらせるだろ。
そしたら結局倉庫は汚ねーままだ。
だから、自分が綺麗にしたいと思ったら、自分で掃除するんだよ」


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