私を買ってください
2
 あれから一週間、このあいだのことは、いったい何だったのか…
ある日、家族とともに部屋に住んでいた[物]たちも一瞬で姿を消し、小さなラジオだけがぽつんと置かれた部屋で、いつもの休日の午後、いつもどおりビールの缶を積んでぼんやり。
「こんにちはー」
呼鈴も鳴らさず、女子、水野さやかは小走りに居間の中央に陣取り、大きな包みを立てかけた。
「おじさん、こんなに何もないリビングはよくない、です。梵天市場の特価品、リビングテーブル、6800円也を設置して、環境改善、です!」
「おじさんも私も、いまは凹んでるけど、いつかは立ち上がる日が来る、です。この前のお財布も、時給800円で返済することにしたです」
「いや…あれは」
「シャーラップです。ダメ母のおかげで掃除だけは得意、です!」

 女子、水野さやかはせっせと掃除に来ては部屋を居心地のいい空間に変えていった。あるときは積んだままの俺の本棚を片付けながら、

「ふむふむ、おじさんもブンガクしている少年時代だった、です?偉い偉い!うん、やっぱ太宰、鴎外、漱石、です!学校で[走れメロス]とかやるから誤解されちゃうですけど、他の作品読むと、やられたっ!って思うです。ほんとは繊細で瑞々しい作品も多いから」

またあるときは普通にお茶を飲んだり、自炊は苦手と宣言して、少しだけヘルシー風の弁当を食べたり…
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