私を買ってください
カーナビ代わりにコンビニで地図を買って数時間。なんとか父親の家の前だ。
迷惑承知で電話をかけ、父親を待つ。
「おじさん、あのね、あのジジイに犯されちゃうくらいなら、誰だっていいやって、ケータイに投稿した、です。変なメールばっかだったけど、おじさんのこころぼそいメールに安心したんだ。なんか、おじさん風に言うと、世の中捨てたモンじゃないってホントに思った、です」
 水野さやかは、突然俺にくちづけをして、車外に飛び出した。
「ヒゲは、チューするとき、ちくちく、するね。ひとつベンキョーした。あははは…」
線の細い、紳士風の男が心配そうな様子でその家から出てくる。
「はじめまして、えーと、お嬢さんの知り合いの土橋です。深夜にすみません」
「縁遠です。この度はお手数かけまして。さやかは責任持ってこちらで」
「お父さん、ご無沙汰してます。ってあんまりわからなくてごめんなさい。って、他人行儀もないよね!いま、おじさんに感謝のチューをしてしまった、です!」
おじさん二人は目を白黒させてうろたえる。
「今日から家族なんだから、なんでもぶつけてみなくちゃ。ね?お父さん」
娘は父の腕を組んで新しい我が家へうながす。

「おじさん、アリガト…」

小走りに父の手を引いて玄関へと向かう二人。
俺も運転席に腰掛け、やっと一区切りと、少し嬉しくもあり、かなり寂しくも思った。
(俺が女という生き物と張り合える日は、永遠に来ないな…)
ひとつだけの結論を得て、俺は帰途についた。

(完)
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