桜、月夜、愛おもい。
進む度に、ぶつかりそうな距離でかすめる肩。
ガヤガヤと耳に障るうるさい喧騒。
前にも後ろにも、嫌と言うほどいる人。
舞う埃に息が詰まりそうになる。
苦手な人込み。
台風が過ぎた翌日でも、この街のこの光景は変わらない。
それに、思わず眉をひそめた。
「奈津?大丈夫?」
そんな私に気付いて、凛桜が心配そうに声をかけてくる。
漆黒の髪が心地良さそうに風に揺れた。
「ん。平気。どっか店入ろ」
小さい声で言って、軽く辺りを見渡す。
すぐに目当ての店を見つけて、「あそこ」と指差すと、凛桜は握った手に力を込めて優しく引っ張ってくれた。