桜、月夜、愛おもい。
目を合わせたら泣いてしまいそうで、怖くて視線を外す。
「奈津」
凛桜はいつでも、私に話しかける時、名前を呼ぶ。
それがどれだけ狡いかなんて、きっと分かってないんだろうけど。
「…何?」
その甘い声で名前を呼ばれたら、逆らうなんて出来ない。
真っ直ぐ正面から、私は凛桜を見た。
「…え」
見た瞬間気付いた。
凛桜の身体だけじゃなく、周りを取り巻く空気さえ、存在感がない。
それも、初めて会った時よりも。
「凛桜…?」
「気付いた?本当にもう、時間ないみたい」
そう言って悲しげに手のひらを見る。
思わず息をのんだ。
細く伸びた指先から手首にかけて、ぼんやりと消えかかっている。
指の先の方は、向こう側さえ見えそうだ。