桜、月夜、愛おもい。
「忘れない…。忘れないよ」
ちゃんと聞こえるように、唇が震えるのを抑えてゆっくり言葉を紡ぎ出す。
「絶対、忘れたりしないっ」
涙声だったけど言い切って、ゆっくりと見上げる。
視線が絡み合って、どちらからともなく目を瞑る。
甘い香りが鼻をかすめたと思う瞬間、唇が重なった。
長い口付け。
吐く吐息や甘い味とか。
すべてを胸に刻む。
涙が零れて、少しだけ、甘さがしょっぱさに変わる。
その次の瞬間。
花の香りがぐっと強くなって。
そして…一瞬で消えた。
「奈津、愛してる」
消える瞬間に、甘い囁きを残して。
目を開けた時、そこには月と、数枚の桜の花びらだけがあった。