桜、月夜、愛おもい。
「…何?…今の…」
明菜さんが出て行った後も、私は玄関に突っ立っていた。
「何で…」
呟いた声は暗闇に消える。
「な、んで、…何で?」
それでも私は呟いた。
声を出した。
そうしないと意識が飛んでしまいそうな気がして。
「何でっ…!…あんな」
どうして?
どうしてあんなに優しそうな瞳をするの?
私を見るの?
どうして?どうして?どうして?
「!」
私はリビングに駆け込んだ。
何でかは分からない。
ただ何となく、行かなきゃいけない気がした。
間に合わない気がした。