『女子中物語』 ダークネス
「おーい、まだやってんのか?」

聞こえていないのか、その人物は振り返りません。

スカイブルーのセットアップに、白いスニーカー。
ショートカットの髪の毛は、少しだけみだれている。

「もう七時だぞ 陸上部か?」

近づきながら問いかけると、ようやく振り返りました。
ショートカットの少女は、頬を赤くして、額に玉の汗をかいています。

「家はここらか? 他の部員は?」

少女は、近くに放り出してあったスポーツバッグを乱暴につかむと、松本先生の脇を通り過ぎながら言いました。

「……もう帰ります」

少女は、バッグをたすき掛けすると、グラウンドを出て、校門へと坂をおりてゆきました。

先生は、きつねにつままれた表情で、その後ろ姿を見送ったのです。
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