Bitter Sweet Kiss
あの時はまだ赤い実をつけていた畑も、いまはもう葉の色だけになっている。
イチゴ畑に挟まれたその小道に、彼はひとり佇んでいた。
「遅ーい!」
息を切らし目の前に立ったわたしに、カイ君はイタズラっ子みたいにそう言って、瞳が見えなくなるくらいに目を細め笑った。
そしてわたしの頭に手を置いて、くしゃっと雑に撫でたんだ。
「……大丈夫、なの?」
「なにが?」
さっき電話の向こうでカイ君は、たった二文字のわたしの名前を口にすることさえ苦しそうだった。
切れ切れに発音する声に、あがる息に、前にサユミちゃんが話していたのを思いだしたの。