峰岸の恋する宇宙-そら-(短編)
「ねぇ…峰岸……」

「何?」

「あたしね…結婚……するんだ」


瓶を口元に運ぶ峰岸の手が、止まった。

瞳が、視線が、うつむいたあたしに向けられるのが分かった。



「…結婚?」

「うん……」

「いつ?」

「来年の……6月」


6月…と呟いた峰岸の唇。

それから閉じた、峰岸の唇。



あたしと峰岸は、お互い…何も言わなかった。

有線の洋楽バラードが、その苦しい沈黙を少しだけ和らげる……。


この店の照明が暗くて……良かった。


結婚を告げたあたしの表情を、峰岸に見られなくて済む……。



沈黙が、どのくらい続いたのか、わからない。

1分だったのか、1時間だったのか……。


ただ分かるのは、あたしの鼻孔の痛みと、熱くなる目頭……。



ダメだよ。


断ち切らなきゃいけないんだよ。


結婚、決めたんだ。

澤村くんと、幸せになるんだ。


だから……沈黙を破らなきゃ。

笑わなきゃ。


笑って、峰岸も祝ってねって……言わなきゃ…。




沈黙を先に破ったのは、峰岸だった。


「そっか、永山、結婚するんだ」


峰岸は………笑った。
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