あなたに映る花


「――な!?」

――はずだった。


「…いい加減にしろ」

男の手首を片手で掴んで止めた斎藤様は、尖った眼で男に告げる。

「まだ相手に手を出しちゃあいなかったようだが、今のは相手が俺じゃなけりゃ、笑い事では済まなくなってたぜ」

そして、ギリリと俺の腕を捩る。

男の顔が苦痛に歪んだ。

「い、痛ぇ!」

必死で振りほどこうとするけれど、余程痛いのかその動きは力無いものだった。

「本来なら奉行所に連れていきてえが…俺達も非番だ。面倒事は避けたい」

そう低く呟くと、男の手をパッと離す。

突然解放されたことに呆然としている男に、斎藤様は言い放った。

「行け。ここは手打ちだ。次に会ったら容赦しねえがな」

威圧するような声音に男は後ずさり、やがて駆け出した。

その背中が見えなくなると、野次馬達もそれぞれの営みに戻ってゆく。

でも、時々ちらりと斎藤様達に目を向けてはさっと逸らしていた。

けれど斎藤様はそんなことを気にもせず、私の前につく。


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