あなたに映る花
「怪我はねえか」
「あ…はい…あの…」
私は恐る恐る彼を見る。
「斎藤様、ですよね…?」
そう問い掛けると、彼は呆れた顔をする。
「あのなあ。見てわかれよ、そんくらい」
気のせいかガッカリしたような声音に、なんだか申し訳なくなった。
「す、すみません…」
何とは無しに謝ると、今度は困った顔をされる。
「いや…そう素直に謝られると…」
「え…え?それじゃ…」
どうすれば、と続けようとしたが、唐突に痛みを感じた右手にもうひとりの被害者の存在を教えられた。
慌てて町娘を見ると、彼女は変わらない怯えを目に宿している。
私は、彼女にそっと声を掛けた。
「…大丈夫ですか?」
すると、少し気を緩めてくれたのか、蚊の鳴くような声の返事が聞こえる。
「は、い…大丈夫、です…」
――よかった。
どこにも怪我はないようだ。