あなたに映る花

ふと、彼女の手が可笑しいくらい震えているのが目に入る。

先程の痛みは、彼女が私の手を握り締めたからだろう。

声を掛けようと娘の顔を見ると、彼女の瞳には斎藤様が映っていた。

それを見た斎藤様は、何かを察したように眉を下げると困惑した声を出す。

「……あー…」

頬を掻きながらじっと娘を見つめる斎藤様。

益々怯えた彼女は、私の背に隠れてしまった。

「あ、あの…?」

問い掛けるように斎藤様を見ると、彼は疲れた声音で話す。

「…仕方ねえんだよ。別にそいつだけがそういう反応するわけじゃねえ」

……どういう意味だろう。

解らずに首を傾げると、斎藤様が不機嫌そうに言った。

「…怖がられたり嫌われたりしてんだよ、町方……特に俺達三人は」

「…え…?」

「町方ってのは、給金はそこそこ貰えるが、あまり綺麗な仕事じゃねえ。さっきみたいな酔っ払いの始末、喧嘩の仲裁、強盗や辻斬りやらを取っ捕まえたり……そういう仕事だ。だから昔から町方は嫌われてる。そればかりか、『仲間を連れてかれた』とか吐かす野郎どもが八丁堀(同心や与力が住む地域)に殴り込みにきたりする。ひでえときには斬り合いで死人もでる」

…死人…!


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